糖尿病性腎症の食事

徳島大学大学院臨床栄養学 教授 武田英二
1. はじめに
糖尿病性腎症は疾病の病期(表1)を理解して、病期にあった食事療法を実施することが重要である。

表 1 .   糖 尿 病 性 腎 症 の 病 期 分 類
病 期 臨 床 的 特 徴
尿タンパク質(アルブミン)  GFR(Ccr)
病 理 学 的 特 徴
(参考所見)
備 考
(提唱されている治療法)
第 1 期
(腎症前期)
正 常 正 常
ときに高値
びまん性病変 なし〜軽度 血糖コントロール
第 2 期 (1)
(早期腎症)
微量アルブミン尿 正 常
ときに高値
びまん性病 変軽度〜中等度
結節性病変 ときに存在
厳格な血糖コントロール・
降圧治療 (2)
第 3 期−A
(顕性腎症前期)
持続性タンパク尿 ほぼ正常 びまん性病変 中等度
結節性病変 多くは存在
厳格な血糖コントロール・
降圧治療・タンパク質制限食
第 3 期−B
(顕性腎症後期)
持続性タンパク尿 (3) 低 下 (3) びまん性病変 高 度
結節性病変 多くは存在
降圧治療・低タンパク質食
第 4 期
(腎不全期)
持続性タンパク尿 著明低下
(血清クレアチニン上昇)
末期腎症 降圧治療・低タンパク質食・
透析療法導入(4)
第 5 期
(透析療法期)
透 析 療 法 中 透析療法・腎移植
(1) 診断に当たっては,糖尿病性腎症早期診断基準を参照
(2) 第2期では正常血圧者でも血圧上昇を認めることがあり,また微量アルブミン尿に対し一部の降圧薬の有効性が報告されている。
(3) 持続性タンパク尿約1g/日以上,GFR(Ccr)約60mL/min以下を目安とする。
(4) 透析療法導入に関しては長期透析療法の適応基準を参照。

2. 方法(表2)
第1期、第2期では腎症の予防的管理が重要であり、血糖コントロールに努めることが重要である。摂取エネルギー量は25〜30kcal/kg/日とする。食塩は高血圧がなくても10g/日以下を、守ることが望ましいが、高血圧合併例では7〜8g/日以下に制限する。
第3期−Aでは持続性タンパク尿が認められるが、腎機能は正常であり、摂取エネルギー量は第1,2期と同じにし、タンパク質摂取量を0.8〜1.0g/kg/日と軽度に制限する。
第3期−Bでは持続性タンパク尿と同時に腎機能が低下しているので、タンパク質制限(0.8〜1.0g/kg/日)を行うと同時に、体タンパク質が分解しないように十分の摂取エネルギー量(30〜35kcal/kg/日)を摂取する。第3期では高血圧の合併がかなりみられ、浮腫を呈することも多いので、食塩は高血圧の有無にかかわりなく7〜8g/日とする。
第4期では腎機能低下が著しいので、厳しいタンパク質制限(0.6〜0.8g/kg/日)が行われる。エネルギー摂取量は30〜35kcal/kg/日とする。食塩制限(5〜7g/日)とカリウム制限(1.5g/ 日)も厳しくする。一般に低タンパク質食ではリン摂取量も減少するが、血中あるいは尿中リン値が高い場合は制限することが必要である。カルシウム、鉄、ビタミン、微量元素などは不足しがちであり、食品の選択や製剤による補給が必要である。
第5期ではQOLを高め、できるかぎりの長寿・延命を図ることを目的とする。すなわち、水分、食塩、カリウムなどの摂取制限を行うが、標準体重の維持、三大栄養素のエネルギー配分比、脂肪酸組成などは健常者と同じとする。

表 2 .   糖 尿 病 性 腎 症 の 栄 養 療 法 の 要 点
病 期 総エネルギー タンパク質 食 塩 カリウム 備 考
(kcal/kg/日) (g/kg/日) (g/日) (g/日)
第1期
(腎症前期)
25〜30 制限せず* 制限せず 糖尿病食を基本とし,血糖コン
トロールに努める。タンパク質
の過剰摂取は好ましくない








浮腫の程度,心不全の有無
から水分を適宜制限する





水分制限(透析間体重増加率
は標準体重の5%以内)
第2期
(早期腎症)
25〜30 1.0〜1.2 制限せず* 制限せず
第3期−A
(顕性腎症前期)
25〜30 0.8〜1.0 7〜8 制限せず
第3期−B
(顕性腎症後期)
30〜35 0.8〜1.0 7〜8 軽度制限
第4期
(腎不全期)
30〜35 0.6〜0.8 5〜7 1.5
第5期
(透析療法期)
HD :  35〜40
CAPD : 30〜35
1.0〜1.2
1.1〜1.3
7〜8
8〜10
< 1.5
軽度制限
*高血圧合併症例では7〜8g/日以下に制限する

3.注意点
腎症に対して低タンパク食を実施するときに留意すべきことにエネルギーの確保である。タンパク質摂取を制限する一方で、体蛋白の異化を防ぐために30〜35kcal/kg/日のエネルギーの確保が求められる。したがって、炭水化物、脂肪の摂取を増すことになる。また、タンパク質やリンを制限したリーナレン(明治乳業)やレナウエル(テルモ)などを活用する方法もある。このような経腸栄養剤の活用や食品の献立については管理栄養士の栄養指導を受けることが重要である。


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